平林 岳
平林 岳
Takeshi Hirabayashi
アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.4「野球に対する姿勢」(04.04.21)
平林 岳 アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.4「野球に対する姿勢」 <メジャーリーガーはアグレッシブ?>
Q.前回は、日米野球のグランドについてお話しいただきましたが、今回はプレースタイルの違いについておうかがいしたいと思います。どのような点が違うのでしょうか?

A:メジャーリーガーのほうが、ストライクゾーンをあまり意識せずに“とにかく打つ”ことに重点を置いているように思います。多少ボール気味の球でも手を伸ばしたり、一歩踏み込んで届く範囲であれば、打ちにいってヒットにする、あるいはホームランにするという意識が非常に強い。その点、日本人よりも積極的で野球としてもおもしろいのではないかと思います。

Q.どちらかと言うと、アメリカ人は攻撃好き?

A:たぶん野球の始まりが影響していると思います。もともとは、バッターがピッチャーに球種をリクエストしたらしいんです。当初、ピッチャーはアンダースローのような打ちやすい球を放っていたようです。その辺がアメリカでは“野球は打つもの”という感覚を育てる要素になったのかもしれないですね。

Q.なぜ日本人は華々しい点取り合戦のような試合よりも、1点を争うような試合を好むのでしょうか?

A:そもそも日本では勝つか負けるかに重きが置かれているので、どうしても得点を取られないように努力します。そういうところから、1-0のような試合が好まれるのではないでしょうか。

<魅せる野球について>
Q.最近、メジャーでも敬遠やバントなどを戦略上使うようになってきました。

A:以前より多いと思います。それは逆に日本の影響と言えるかもしれませんね。

Q.なるほど。それは何かメジャーリーガーの気質とも関係しているのでしょうか?

A:彼らはよいと思ったことは、すぐにトライします。伝統にとらわれることなく、どんどん取り入れます。ですから、野球の戦術的な流行のようなものがどんどん変わっていきます。それに見ているほうも変化があって楽しいと思います。

Q.メジャーリーガーは、お金をいただいて野球を「魅せる」=ショーとしてとらえているのでしょうか。やはり日本でもそのような気持ちは持っていただきたいですよね。

A:そうですね。

Q.さて、次回はパ・リーグでの審判経験談についておうかがいしたいと思います。

聞き手:深山 計

アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.3「プレシーズンマッチを観て−グランド編」(04.04.06)
平林 岳 アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.3「プレシーズンマッチを観て−グランド編」 <日本の球場は柔、米は硬>
Q.さて、今週はグランドについてお話を進めたいと思います。聞くところによると、東京ドームのアンツーカー(土のグラウンド)が柔らかすぎて、大リーガーが脚を痛めたために、今回球場をアメリカ流に整備したそうですね。やっぱり日本とアメリカのグランドはそんなに違うものですか?

A:違いますね。アメリカは陸上競技のトラックのようにガチガチに硬くて、ほとんど掘れません。無理して掘らない限り、常に平面を保っています。だから、審判としてはやりやすいんです。これは僕の経験ですが、東京ドームは試合が進むにつれて、バッターボックスとかピッチャーマウンドがどんどん掘られていくんです。極端に言うと、1回の表と8回の裏でバッターボックスが2〜3cm低くなります。厳密に言うと、ストライクゾーンも後半のほうが下がっているはずなんです。そのぐらい日本の球場は柔らかいんです。

Q.日本の選手はどのように感じているんでしょうか?

A:日本からメジャーに移った選手に聞いたところ、アメリカの球場は硬すぎてケガをすると言っていました。例えば、ピッチャーがふんばるときに、日本の球場は柔らかいのでクッションが効いて投げやすいのだそうです。いずれにしても、慣れることが大事だと思います。アメリカでは高校から硬い球場でプレーしています。順応すれば問題はないですよね。

Q.野球選手にとって脚は大きな資本ですから、イチロー選手にしても松井秀喜選手にしても、あの活躍はすばらしいですし、特にイチロー選手はあれだけ長い間活躍しているというのは、すごいことですよね。

A:彼ら自身もすばらしいと思いますが、大リーグに合わせた用具をきちんとつくって、選んでくれるスタッフがしっかりと支えているということもあるでしょうね。

<人工芝と天然芝>
Q.面白いのは、メジャーリーガーが人口芝に相当苦労していましたよね。

A:以前は大リーグも人口芝が多かったのですが、今はほとんどが天然芝に変わっている状況です。プレーするうえで、やっぱり大きな違いですね。

Q.私たちの感覚からすると、大リーガーのほうが人口芝に慣れているように思いがちですが、実のところ大リーガーのほうが人工芝に慣れていない。

A:かつては人口芝だったのですが、天然芝のほうが体への負担が少ないということで、どんどん天然芝を取り入れています。ドーム球場も天然芝です。日本もそのうち天然芝が増えるんじゃないでしょうか?

Q.日本では甲子園球場のグランドキーパーの方が高い技術を持っていらっしゃいますが、興業的に言うと難しいかもしれませんね。

A:アメリカではグランドキーパーという方が専門職として各球場に必ずいます。その意味では、日本よりも球場管理にお金をかけていますよね。しかも、職業として認められているわけですから。

Q.今回のお話をおうかがいして、また一つ野球を観る楽しみが増えました。ありがとうございます。

聞き手:深山 計

アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.2「プレシーズンマッチを観て−ボール編」(04.02.29)
平林 岳 アンパイアからみた日米野球の相違 Vol.2「プレシーズンマッチを観て−ボール編」 <真剣勝負だった日米スターのドリーム競演>
Q.先週末行われた阪神vs.デビルレイズ、ヤンキースvs.巨人戦ですが、どちらの試合も真剣勝負でしたね。

A:そうですね、かなり気合が入っているように感じられましたね。

Q.平林さんが日米野球の球審をつとめられた98年当時は、秋に行われていましたが、前回のメッツの開幕戦から初めて春に行うようになりました。今回のオープン戦を含めた試合が春に行われたというのは、やはり雰囲気が全く違いますね。

A:大リーグ選手も日本の選手もシーズン前の調整ではあるけれど、お祭りではないので観ていて真剣味がひしひしと伝わってきました。

<使用球は攻撃ごとに変更>
Q.今回、使用球は攻撃ごとに変更されましたよね。日本のピッチャーが投げるときは日本公認球で投げて、大リーグのピッチャーが投げるときは大リーグ公認球を使っていますね。

A:そうですね。お互い使い慣れているボールを使用するということなのでしょうが、将来にわたって日米の差がなかなか縮まらない課題の一つとして残るでしょうね。

Q.球団からすると、両者とも一番大事なときだから、少なくともピッチャーの感触が狂ってしまうと困るということはありますよね。ただ、そのことによってオープン戦でお互いに違和感があったかというと、そんなこともないように思いますが…。

A:観ていてやっぱりそうなのかと思ったのは、大リーグのピッチャーが投げたボールを受けて、清原選手をはじめ巨人の選手が何本もバットを折っていたんですよ。僕が球審を務めた98年当時も、大リーグのピッチャーは大リーグ公認球を使っていましたが、バットがボールに負けてしまうような音だったことをよく覚えています。アメリカのボールのほうが重いし、硬いように思います。

<日本公認球と大リーグ公認球>
Q.確か清水選手が打った場面で、「エェッ」という顔をしていましたよね。それではここで、日本の公認球と大リーグの公認球の違いを教えてください。

A:ルールブックで決められているボールの仕様は一つですが、直径とか円周、重さに許容範囲がありますから、日本とアメリカのボールを測ってみると多少違うと思います。実際にボールを触ってみた印象で言うと、大リーグ公認球のほうが若干大きくて重みがあり、山の幅(縫い目の幅)が広くなっています。山の高さは日本公認球のほうが高いと思います。革の質は大リーグのほうがパサパサと乾燥していて、日本のほうがしっとりして高級感があります。

Q.縫い目の数は108で変わらないのですか?

そうです。同じです。

Q.球審ですと、バットのインパクトの瞬間とか、キャッチャーミットにボールが収まる一瞬などを一番近いところで観ているわけですよね。そのようなシーンもボールの種類によって違ってくるのですか?

A:大リーグのボールがバットに当たったときの音は、石ころを打っているような硬そうな音がします。日本のボールは「グシャッ」というような感じです。

Q.そのせいもあってか、先日は大リーガーのほうが圧倒的にホームランの数が勝っていましたね。

A:日本のボールを打っているわけですから、それは飛びますよね。

Q.なるほど。ボール一つをとっても日米野球の違いが見えてくるものですね。次回はグランドについて、話を進めていきます。

聞き手:深山 計

アンパイアからみた日米野球の相違 vol.1 日米野球のストライクゾーンの違い (03.11.15)
平林 岳 アンパイアからみた日米野球の相違 vol.1 日米野球のストライクゾーンの違い <ジム・エバンスアンパイアクリニックin名古屋を終えて>
Q.ジム・エバンスアンパイアクリニックin名古屋が無事終了し、お疲れ様でした。終えた感想は?

A:ジム・エバンス校長のわかりやすい丁寧な指導のおかげで、初心者も経験者も非常に満足していただくことができました。スタッフとして運営面で苦労した点はかなりありましたが、成功だったと思います。

Q.審判として経験を積んでいる参加者が、ジム・エバンスの指導を受けることへのとまどいは?

A:なかったと思います。日本では教えてもらったことに対して、先輩に理由を聞いてもわからないまま、納得せずにただ単に従うというやり方です。一方、ジム・エバンスの指導は、教えることすべてについて明確な理論づけが伴っていますので、参加者にとっては新鮮に映ったのではないでしょうか。

<日米野球の審判の違い>
Q.日米のプロ野球は違うと言われるが、審判については?

A:アウト、セーフの判定は変わらないが、審判に望まれる役割や意識は違います。日本の場合は、極端に言うとアウト、セーフにのみ重点が置かれているように思うんです。アメリカは、選手や観客がルールブックに書かれているすべての事柄に則って、厳格に試合が進められるかどうかにポイントが置かれています。審判が試合を運営しているという意識が強いからこそ、退場が多い。試合の進行の妨げになるから退場させるということが当たり前のように行われています。

Q.アメリカのほうが試合の流れを重視する傾向にあると…。

A:そうですね。常に試合の進行の波を読むよう心がけているように思います。

Q.一方、日本では?

A:試合全体をルールブックに則って進行するというよりも、日本では一つ一つの判定ができるだけ機械のように正確に行うことが求められているので、試合全体というよりも細部の判定を重視せざるを得ないような風潮があると思います。細かい判定にこだわる背景には、勝利至上主義が影響していると思います。観客もまたその傾向が強い。

Q.ということは選手の考え方や反応も違う?

A:アメリカは、選手も観客も結果うんぬんよりも、試合の中でのピッチャーとバッターの対決やランナーとキャッチャーのかけひきなどを重視しています。だから、審判の判定はあまり気にならないのだろうし、審判に対して返ってくる反応も違います。そこら辺は、ルールの中で審判を務めているという認識をしているので選手も理解してくれています。

Q.日本での審判の役割は黒子であり、目立ってはいけない存在のように思います。

A:日本での審判の役割は機械のよう。ふだんは目立たないけれども、判定の機械が狂うと文句を言われるような…。

<日米のストライクゾーンの違いはどこにあるのか>
Q.メジャーを含めた日本以外のストライクゾーンは外側に若干広めではないかといわれますが…。

A:ストライクゾーンの判定に関して言うと、日本では機械的なことを要求されますが、アメリカは野球を取り巻く環境や条件を勘案します。例えば彼らは腕が長いので、外側の球は簡単に手が届くけれども、内側は打ちづらい、あるいは内側を攻めることでデットボールが多くなるということから、ほとんどの人が外側が広めで内側が狭めのストライクゾーンのほうが、楽しめるんじゃないかということからそのような傾向にあります。

Q.さて、次回は日米の野球に対する姿勢についておうかがいしたいと思います。

聞き手:深山 計